不採算事業から撤退すべきかは、感情ではなく限界利益と貢献利益の数字で判断すべきである

撤退すべきかどうかは、数字で決まります。判断の軸は限界利益と貢献利益。この二つがマイナスなら、続けるほど会社の体力を削ります。逆に、限界利益がしっかり出ているなら、赤字に見えても残す価値がある。ここを取り違える社長が本当に多い。「もう三年も赤字だから」「思い入れがあるから」。どちらも判断材料にはなりません。夜中に電卓を叩きながら「本当にやめていいのか」「従業員に何と言おう」「取引先に迷惑がかかる」と手が止まる。その気持ちはよく分かります。この記事では、撤退の線引きを数字で引き直し、迷いを一つずつ減らせるように整理します。岐阜で多くの中小企業の決算を見てきた立場から、判断の順番をお伝えします。

この記事のポイント

  • 撤退判断は限界利益で最初に切る。売上から変動費を引いた限界利益がマイナスなら、売れば売るほど損が増えるため即撤退の検討対象です。
  • 「事業部の赤字」は配賦の錯覚が多い。本社経費を按分した見せかけの赤字か、その事業固有の固定費すら賄えない本当の赤字かを分けて見ます。
  • やめても消えない費用を先に確認する。撤退しても残る家賃や人件費(埋没費用)を数えないと、やめたのに苦しいという最悪の結果を招きます。

この記事の結論

  • 限界利益がマイナス→原則すぐ撤退を検討
  • 限界利益はプラスだが貢献利益がマイナス→改善期限を切って撤退判断
  • 貢献利益がプラス→全社の共通経費を負担しているので原則継続
  • 撤退後に残る固定費(埋没費用)を差し引いて実質効果を試算する
  • 感情・思い入れ・過去の投資額は判断材料から外す

撤退か継続かは「利益の見え方」を分けることから始まる

正直なところ、決算書の事業部別の赤字だけを見て「この事業はダメだ」と決めるのは危険です。その赤字が本物かどうか、まず数字を分解する必要があります。

限界利益がマイナスなら、続けるほど傷が深くなる

限界利益とは、売上から変動費(材料費・仕入・外注費など、売上に連動して増える費用)を引いた金額です。ここがマイナスというのは、一つ売るごとに現金が出ていく状態。たとえば売上1000万円、変動費が1100万円なら、限界利益はマイナス100万円。この事業は、動かすだけで損を生みます。頑張って売上を伸ばすほど赤字が膨らむ、という最もたちの悪いパターンです。この場合は思い入れを挟む余地なく、撤退か抜本的な値上げの二択です。ある岐阜市の飲食を営む会社で、宅配専門の一部門がまさにこれでした。容器代と配達手数料、それにアプリの手数料を足すと、一食売るごとに手元から現金が出ていく。売上は立っているので社長は「回っている」つもりでした。ところが変動費だけで売価を超えていた。月商80万円ほどの小さな部門でしたが、止めた月から資金繰りの息苦しさが目に見えて和らぎ、社長は「動かすほど損してたなんて」とため息をついていました。数字を並べるまで、誰も気づいていなかったのです。

貢献利益で「本当の赤字」を見抜く【判断基準】

限界利益がプラスでも安心はできません。次に見るのが貢献利益です。貢献利益は、限界利益からその事業に固有の固定費(専用の家賃・専属社員の人件費・その事業のためだけのリース料など)を引いた金額。ここがプラスなら、その事業は全社共通の経費(社長の役員報酬や本社家賃)の一部を負担してくれています。目安として、私はこう線を引いています。限界利益率が20%を下回り、かつ貢献利益がマイナスで、改善の見込みも立たない。この三つが揃ったら撤退候補です。逆に、貢献利益がわずかでもプラスなら、決算書上は赤字に見えても、やめると共通経費がほかの事業に丸ごと乗ってきて、かえって全社が苦しくなることがあります。具体的な数字で見ましょう。売上1000万円・変動費800万円なら限界利益は200万円(限界利益率20%)。ここからその事業専用の固定費150万円を引けば、貢献利益は50万円のプラス。この50万円は本社経費を助けているので、簡単に手放すべきではありません。ところが専用固定費が250万円かかっていれば、貢献利益はマイナス50万円。改善の道が描けないなら、これは撤退候補です。同じ「赤字部門」でも、中身はまるで違うのです。

配賦のからくりに惑わされない

よくあるのが、本社経費を売上比で各事業に按分した結果、無理やり赤字に見えている事業です。実は本社経費は、その事業をやめても消えません。社長一人分の役員報酬も、本社の家賃も、事業を一つ畳んだくらいでは減らない。だから「按分後の赤字」ではなく「その事業固有の費用まで引いた貢献利益」で見る。ケースによりますが、按分の基準を変えるだけで黒字にも赤字にも見せられてしまう。だからこそ、配賦前の数字に一度戻して確認することをおすすめします。

数字が「撤退」と出た後に、もう一段考えること

限界利益・貢献利益で撤退の目安が立ったら、次は「やめた後、本当に楽になるのか」を試算します。ここを飛ばすと、決断したのに苦しいままという事態が起きます。

やめても消えない費用(埋没費用)を数える

撤退しても、契約期間の残る店舗家賃、正社員の雇用、リース契約などはすぐには消えません。ある製造業の社長から相談を受けたときのことです。年間300万円の赤字を出す事業部を畳もうとしていた。ところが数えてみると、その事業をやめても残る費用(専用工場の残リース、配置転換できない社員2名分)が年200万円ありました。撤退で消える赤字は実質100万円。「300万円浮く」と思い込んでいた社長は、最初は半信半疑でしたが、数字を並べると黙り込みました。撤退はするにしても、リース満了のタイミングまで縮小運転で待つ、という別の道が見えてきたのです。

撤退の判断に「過去の投資額」を混ぜない

「これまで2000万円もつぎ込んだのに、今やめたら全部無駄になる」。この感覚が、撤退を一番遅らせます。すでに払ったお金は、続けても戻ってきません。判断すべきは、これから先に生む利益と損失だけ。過去の2000万円は、続ける理由にも、やめる理由にもならない。冷たいようですが、ここを割り切れるかどうかで、傷の深さが変わります。実は、早めに畳んだ社長ほど、その後の主力事業に資金と時間を集中できて、数年後に振り返って「あの決断でうちは残れた」と静かに話されることが多い。

撤退の伝え方と時間の使い方

数字で決めた後も、従業員や取引先への伝え方は別問題です。急な打ち切りは信用を損ないます。中小企業庁の調査でも、経営資源の集中が中小企業の収益改善につながる傾向が示されていますが、それは撤退を丁寧に進めた場合の話。取引先には代替先を紹介し、契約の残りを見ながら数カ月かけて引き継ぐ。社員には配置転換や引き継ぎ期間を用意する。この段取りを省くと、目先の赤字は消えても、失った信用のぶん主力事業まで傷つくことがあります。そして忘れがちなのが、社長自身の時間です。不採算事業に費やしていた頭の容量が空くと、主力事業の打ち手が驚くほど増えます。先ほどの製造業の社長も、部門を縮小してから半年後、「あの件で頭が一杯だった間、本業を見られていなかった」と話していました。数字だけでなく、社長の「考える時間」も回収できる資産だと考えてください。撤退は後ろ向きの決断ではなく、限りある資源をどこに集中させるかという前向きな選択でもあるのです。

よくある質問

Q1. 何年赤字が続いたら撤退すべきですか

年数だけでは決まりません。3年連続赤字でも貢献利益がプラスなら残す価値があり、逆に1年目でも限界利益がマイナスなら即検討です。年数より利益構造で判断します。

Q2. 限界利益はどう計算しますか

売上から変動費(仕入・材料・外注・販売手数料など売上に連動する費用)を引きます。売上1000万・変動費700万なら限界利益は300万円、限界利益率は30%です。

Q3. 事業部が赤字でも続けたほうがいい場合はありますか

あります。貢献利益がプラスなら、その事業が本社経費の一部を負担しています。やめると共通経費が他事業に乗り、全社の利益がかえって減ることがあります。

Q4. 撤退の目安になる数字はありますか

目安は、限界利益率20%未満・貢献利益マイナス・改善見込みなしの三つが揃うこと。すべて満たすなら撤退候補、一つでも外れるなら継続の余地を検討します。

Q5. 撤退すればすぐ資金繰りは楽になりますか

とは限りません。残リースや雇用など、やめても残る費用があります。撤退で消える赤字から、この残る費用を差し引いた金額が、実際に改善する額です。

Q6. これまでの投資額が大きくて踏ん切りがつきません

過去の投資は続けても戻りません。判断はこれから先の損益だけで行います。投資額を惜しんで続けるほど、損失は積み上がる傾向があります。

Q7. 撤退か縮小か、どちらを選ぶべきですか

限界利益がマイナスなら撤退寄り、プラスなら縮小して固定費を落とす選択もあります。リース満了などの節目まで縮小運転で待つ判断も現実的です。

Q8. 撤退の判断は誰に相談すればよいですか

数字の分解が要になるため、決算を継続的に見ている税理士や会計事務所が向いています。事業部別の損益を貢献利益まで分けて出せる相手を選んでください。

最後に整理しておきたいこと

  • まず限界利益を見る。マイナスなら続けるほど損が増える
  • 次に貢献利益を見る。プラスなら赤字でも共通経費を支えている
  • 按分後の見せかけの赤字と、本当の赤字を分ける
  • 撤退後に残る費用(埋没費用)を引いて実質効果を試算する
  • 過去の投資額と思い入れは判断から外す

撤退の判断は、迷っている間にも赤字が積み上がっていきます。感情で先延ばしにするほど、選べる道は狭くなる。まずは自社の事業を一つ、限界利益と貢献利益に分けて数字を並べてみてください。それだけで、続けるべきか手放すべきかの輪郭が見えてきます。一人で抱え込まず、数字を一緒に読める相手に、早めに相談することをおすすめします。

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経営計画とは何か(背景知識の整理)

このテーマは、判断の切り口ごとに考え方が分かれます

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