給与体系の作り方で悩む賃金がどんぶりな社長へ!不公平感を生まない給与の決め方を判断できるように解説

給与は、社長の感覚ではなくルールで決めるべきです。どんぶり勘定の賃金は、遅かれ早かれ不公平感を生みます。理由はひとつ。基準がないと、誰かを上げたときに別の誰かが黙って不満をため込むからです。しかも社長自身が昇給の理由を言葉にできない。それが一番危ない。判断の軸は三つあります。①仕事の中身で決めるのか勤続年数で決めるのか ②固定給と変動給の比率をどう取るのか ③昇給の根拠を人に説明できるか。この記事を読む多くの社長は、こう感じているはずです。「このままで辞められたら困る」「あの子だけ上げていいのか」「そもそも相場が分からない」。ここでは、その迷いを整理し、明日から手をつけられる順番で、給与体系のつくり方を判断できるようにしていきます。

この記事のポイント

  • 給与体系は「決め方のルール」を先につくる。金額の多寡より、なぜその額なのかを説明できることが不公平感を消します。
  • 固定給と変動給の比率が会社の体力を左右する。固定を上げすぎると赤字の年に身動きが取れなくなります。
  • 一度上げた給与は下げられない前提で設計する。だからこそ賞与や手当で調整の余地を残すのが現実的です。

この記事の結論

  • まず等級と役割を三〜五段階で言語化する
  • 各等級に給与の幅(レンジ)を持たせる
  • 固定給は業績が悪い年でも払える水準に抑える
  • 賞与は利益に連動させ、頑張りが報われる形にする
  • 決めたルールは紙に書き、全社員に同じ言葉で伝える

どんぶり賃金がなぜ組織を壊すのか

正直なところ、多くの中小企業の給与は「なんとなく」で決まっています。入社時の言い値、前職の額、そのときの社長の印象。悪気はありません。創業期は社長の目が全員に届くので、それでも回ります。ただ、人が十人を超えるあたりから、その積み重ねが社内に静かな地雷を埋めていきます。しかも厄介なことに、給与への不満は表に出ません。ある日突然、退職という形で表面化するのです。

不満は「金額」ではなく「説明のなさ」から生まれる

岐阜市のある建設会社の社長から、こんな相談を受けたことがあります。「同じ現場で同じ仕事をしている二人の給料が、月に四万円も違う。理由を聞かれて、答えられなかった」。過去の採用時の交渉の名残でした。片方は入社時に強気で交渉し、もう片方は言われた額で入った。それだけの差です。本人たちは薄々気づいていて、安いほうがある日ぽつりと辞表を出した。退職面談で出た言葉は「給料が安いから」ではなく「なぜ自分が安いのか、誰も説明してくれなかったから」でした。人は、金額そのものより「なぜ自分はこの額なのか」が分からないことに耐えられないのです。帝国データバンクの調査でも、中小企業の人手不足感は高止まりが続いています。採用に一人あたり数十万円をかける時代に、せっかく採った人を説明のなさで失うのは、本当にもったいない。

社長の「気持ち」で上げると翌年に効いてくる

よくあるのが、繁忙期に頑張ってくれた社員へ、その場のノリで固定給を上げてしまうケースです。気持ちは分かります。でも固定給は一度上げると下げられない。翌年、売上が落ちても払い続けることになります。ある小売業では、好調な年に五人へ一律で月一万円ずつ昇給し、翌年の不振で資金繰りが一気に苦しくなりました。上げるなら賞与で、が鉄則です。感謝は形にしていい。ただし固定費に変えるかどうかは、冷静に分けて考える必要があります。

判断基準:その昇給、来年も払えますか

昇給を決める前に、自分にこう問うてみてください。「売上が二割落ちた年でも、この給与を全員に払えるか」。払えるなら固定給で上げてよい。不安が残るなら、賞与や手当で対応する。ケースによりますが、固定給の総額は、粗利がもっとも悪かった年でも回る水準に収めておくのが安全です。過去三年の決算書を並べ、いちばん悪かった年の粗利で人件費が何割になるかを見る。それだけで、上げていい上限が見えてきます。数字で線を引くと、情に流されずに済みます。

不公平感を生まない給与体系のつくり方

では、具体的にどう組み立てるか。難しい人事制度をいきなり入れる必要はありません。大企業向けの分厚い賃金テーブルを真似ても、中小企業では続かないのが実情です。順番さえ守れば、社員三十人規模までなら社長と幹部の数人で、十分に自前でつくれます。大事なのは精密さより、全員が同じルールで見られているという納得感です。

ステップ1:役割を等級に分けて言葉にする

最初にやるのは、仕事の中身を三〜五段階に分けることです。たとえば「言われた作業をこなす」「一人で現場を任せられる」「後輩を指導し数字を持つ」といった具合に、期待する役割を文章で書き出す。金額はまだ考えません。実は、この「言語化」こそが一番の山場です。岐阜の運送会社では、社長と番頭格の二人で丸一日かけて役割を書き出したところ、「うちは誰が何を期待されているのか、今まで誰も知らなかった」と気づいたそうです。書き出してみると、給料が高いはずのベテランが実は二等級相当の働きしかしていない、という気まずい現実も見えてきます。それでも、そこから目をそらさないことが出発点になります。ここが決まれば、給与はその等級に紐づけるだけになります。

ステップ2:等級ごとに給与の幅を持たせる

次に、各等級に「下限と上限」のレンジを設けます。たとえば二等級は月給二十四万〜二十九万円、三等級は二十八万〜三十四万円、というように。一点で固定しないのがコツです。同じ等級でも経験や貢献で差をつけられ、上限に達したら次の等級を目指す、という成長の道筋が見える。昇給額の目安、たとえば「標準で年五千円、期待を超えたら一万円」まで決めておくと、毎年の面談で社長が悩まずに済みます。ここで一つ注意があります。隣り合う等級のレンジを少しだけ重ねておくこと。重なりがないと、昇格した瞬間だけ給料が跳ね上がり、かえって不公平の火種になります。中小企業庁の資料でも、賃金の見える化は定着率の改善につながる傾向が示されています。数字の幅があるだけで、社員は「頑張れば上がる」と感じられるのです。

ステップ3:固定と変動を分け、賞与で報いる

最後に、固定給と変動給(賞与)の役割を分けます。固定給は「安心して暮らせる土台」、賞与は「会社の成果を分かち合う部分」。この二階建てにしておくと、業績が悪い年は賞与を抑えて調整でき、固定費で会社が潰れずに済みます。目安として、年間人件費のうち賞与が二〜三割を占めるくらいにしておくと、調整の余地が生まれます。賞与の配分も「基本給の何か月分」を全員一律にするのではなく、半分は会社業績、半分は個人の貢献、と分けると納得感が出ます。最初は半信半疑だった前述の建設会社の社長も、等級とレンジを整えて全員に説明した後、「給料の話で気まずくならなくなった」と漏らしていました。派手な変化ではありません。ただ、面談で目をそらさずに話せるようになった。その一点が、社長の肩の荷を少し軽くしたようでした。

よくある質問

Q1. 社員が何人になったら給与体系をつくるべきですか

目安は五〜十人です。この規模を超えると社長の記憶だけで公平さを保つのが難しくなります。人が増える前に、簡単な等級だけでも決めておくと後が楽です。

Q2. 一度決めた給与は下げられますか

固定給の引き下げは原則として本人の同意が要り、簡単ではありません。だからこそ、上げるときは賞与や手当を使い、固定給は慎重に上げるのが現実的です。

Q3. 同じ仕事なのに給料が違う二人、どう直せばいいですか

低いほうを是正するのが基本です。ただし一気にではなく、等級とレンジを作ったうえで、一〜二年かけて幅の中に収める進め方が無理がありません。

Q4. 年功序列と成果主義、どちらがいいですか

どちらか一方に振り切る必要はありません。中小企業では、勤続で安心を担保しつつ、賞与で成果を反映させる折衷型が回りやすい傾向があります。

Q5. 給与の相場はどう調べればいいですか

厚生労働省の賃金構造基本統計調査や、地域・業種別の求人相場が参考になります。岐阜圏の同業の求人票を数件見るだけでも、水準の感覚はつかめます。

Q6. 手当はいくつも作ったほうがいいですか

増やしすぎは禁物です。役割手当・資格手当など目的が明確なものに絞りましょう。数が多いと計算が煩雑になり、かえって不公平感の温床になります。

Q7. 賞与は利益がなくても払うべきですか

無理に固定額で払う必要はありません。利益に連動させる基準を先に決めておけば、出ない年に払わなくても社員は納得しやすくなります。

Q8. 制度づくりは社労士と税理士どちらに相談すべきですか

就業規則や労務は社労士、原資となる利益や資金繰りとの兼ね合いは税理士が得意分野です。両輪で見ると、無理のない設計になります。

最後に整理しておきたいこと

  • 給与は金額より「決め方のルール」を先につくる
  • 役割を三〜五等級に言語化し、各等級に給与の幅を持たせる
  • 固定給は最悪の年でも払える水準に抑える
  • 頑張りへの報いは、固定給ではなく賞与で返す
  • 決めたルールは紙にし、全員へ同じ言葉で伝える

給与体系は、完璧なものを一度でつくろうとすると必ず止まります。まずは等級を三つに分ける、そこからで十分です。社員の顔が浮かんで手が止まるなら、それは真剣に向き合っている証拠。数字と役割で線を引けば、給料の話は気まずいものではなくなります。そして一度つくったら、毎年少しずつ手を入れていけばいい。最初から完璧である必要はありません。今年の賞与を決める前に、まずは紙一枚に役割を書き出すところから始めてみてください。判断に迷う部分や、利益との兼ね合いで不安が残るところは、数字を一緒に見てくれる専門家に相談しながら進めれば十分です。

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