中小企業の賃上げの進め方で悩む経営者へ|組織が変わる改善策を税理士が解説
賃上げは、気合いや一時金で決めるものではなく、粗利改善と生産性で原資をつくってから小さく始めるべきである。
賃上げの正解は「原資を先につくる」ことです。理由は単純で、原資のない賃上げは一度は喜ばれても、翌年には資金繰りを苦しめるから。まず粗利、次に生産性、最後に制度。この順番で考えます。上げたい気持ちはあるけれど、来年も払い続けられるのか。周りが上げているのに、うちだけ据え置きで人が辞めないか。正直、そこで手が止まる社長は多い。この記事では、賃上げの原資をどこから生み出すのか、賃上げ促進税制をどう位置づけるのか、そして無理なく続けるための進め方を、岐阜で中小企業の数字を見てきた立場から整理します。読み終えるころには、いくら・いつ・どう上げるかを自分の会社の数字で判断できるようになるはずです。
この記事のポイント
- 賃上げの原資は粗利改善と生産性向上でつくる。売上を追うより、値決めの見直しと一人あたりの粗利を上げるほうが確実に効きます。
- 賃上げ促進税制は「後押し」であって原資ではない。要件は毎年変わるため断定は避け、使えるかは必ず税理士や公的窓口で確認します。
- 一気に上げず、小さく始めて続ける。ベースアップは一度上げると下げられない前提で、賞与や手当と組み合わせて設計します。
この記事の結論
- 賃上げは「原資→制度→進め方」の順で考える
- 原資の第一歩は値上げと不採算の見直しによる粗利改善
- 一人あたり粗利が増えれば、賃上げは無理なく続く
- ベースアップは慎重に、賞与・手当で調整余地を残す
- 税制優遇は使えれば得だが、あてにして計画を組まない
賃上げの原資は、どこから生まれるのか
正直なところ、賃上げの相談で一番多いのが「上げたいけど原資がない」という悩みです。でも原資は、天から降ってくるものではなく、粗利と生産性からつくるもの。ここを分けて考えないと、話が前に進みません。
まず粗利を見る。売上ではなく
賃上げの原資は、売上ではなく粗利(売上総利益)から出ます。よくあるのが、売上を1割伸ばせば給料を上げられる、という発想。でも粗利率が2割の会社なら、売上を1割増やしても粗利は売上の2%分しか増えません。ある岐阜市の飲食店の社長は、客数を追って疲弊していました。試算表を一緒に見ると、粗利率が原材料高で3ポイント下がっていた。値決めを見直し、原価率の高いメニューを2品絞っただけで、粗利率が約4ポイント戻り、パート1人分の時給アップ原資が生まれました。数字にすると、月商600万円の会社で粗利率が4ポイント戻れば、月24万円ほどの粗利が増える計算です。これがそのまま賃上げの原資になります。売上を追う前に、粗利がどこで漏れているかを見る。値上げは怖いという声もよく聞きますが、実際にやってみると、離れる客より残る客のほうがはるかに多い。これが出発点です。
一人あたりの生産性を上げる
次が生産性です。ここでいう生産性とは、従業員一人あたりがどれだけ粗利を稼いでいるか。実は、賃上げが続く会社と続かない会社の差は、ここに出ます。ある製造業の社長から「人を増やしても利益が増えない」と相談を受けたことがあります。工程を見ると、段取り替えと手待ちで一日2時間近くが消えていた。作業の順番を組み替え、材料の置き場を近づけただけで、残業が月20時間ほど減り、同じ人数で受注をこなせるようになった。人を増やさずに粗利が伸びれば、その分を給料に回せます。この会社では、浮いた残業代の一部を基本給に振り替えることで、社員の手取りを増やしつつ、会社全体の人件費はほぼ横ばいに保てました。設備投資やITで一人あたりの仕事量を増やすのも、遠回りに見えて賃上げの近道です。帝国データバンクなどの調査でも、賃上げできる企業ほど生産性向上の取り組みを併走させている傾向がうかがえます。人手不足が続く岐阜の中小企業にとって、生産性はもはや賃上げの前提条件だと言っても言いすぎではありません。
判断基準:この賃上げは来年も払えるか
賃上げに踏み切るかどうか、判断に迷ったら次の基準で考えてみてください。ケースによりますが、①上げた人件費が、直近の粗利増加額の範囲に収まっているか。②その粗利増加は一時的な特需ではなく、値決めや生産性など続く要因からきているか。③手元資金が月商の1〜1.5か月分を切っていないか。この3つが揃っていれば、無理のない賃上げといえます。逆に、どれか一つでも欠けるなら、ベースアップではなく賞与や一時金で対応するのが安全です。中小企業庁の調査でも、賃上げに踏み切れない理由の上位は一貫して「原資の確保が難しい」こと。裏を返せば、原資さえ設計できれば道は開けるということです。
賃上げ促進税制と、無理なく続ける進め方
原資の目処が立ったら、次は制度の活用と進め方です。ここで大事なのは、税制優遇はあくまで「後押し」であって、原資そのものではないという割り切りです。
賃上げ促進税制は「使えたら得」の位置づけ
賃上げをした中小企業が、前年より増やした給与総額の一定割合を法人税から差し引ける、いわゆる賃上げ促進税制という仕組みがあります。教育訓練費を増やした場合などに上乗せがある点も知られています。ただし、対象となる給与の範囲、必要な増加率、控除の上限、繰越の扱いといった細かい要件は、改正のたびに変わります。ここで断定は避けます。実は、この制度を「あるから賃上げする」と主体にしてしまうと、要件を満たせなかったときに計画が崩れる。あくまで「賃上げを決めた結果、条件に合えば税金が軽くなる」という順番で捉えるのが安全です。自社が使えるかどうかは、国税庁の資料や税理士に必ず確認してください。
ベースアップと賞与を、役割で分ける
進め方で最初に迷うのが、月給を上げるか、賞与で報いるかです。ベースアップ、つまり基本給の引き上げは、一度上げると原則下げられません。景気が悪くなっても払い続ける固定費になります。一方、賞与や手当は、業績に応じて調整できる。だから、恒常的に増えた粗利の範囲でベースアップし、上振れ分は賞与で還元する。この二段構えにすると、社員には「毎月の安心」と「頑張った分の実感」の両方が届きます。ある小売業では、時給を一律に上げる代わりに、繁忙期の手当と決算賞与を厚くしたところ、辞めそうだったパートさんが残ってくれた。最初は半信半疑だった社長が、後から「全部を月給に乗せなくてよかった」と話していたのが印象に残っています。
判断基準:小さく始めて、続けられる形にする
賃上げは、金額の大きさより「続くかどうか」で評価されます。進め方の判断基準はシンプルです。まず、初年度はベースアップを1〜2%程度の無理のない幅にとどめ、残りは賞与で調整する。次に、賃上げと同時に、値決めや生産性改善の打ち手を必ずセットで走らせる。原資づくりと賃上げは、片方だけでは続きません。そして、社員に「なぜ上げるのか、何を評価したのか」を言葉で伝える。金額が同じでも、理由が伝わるかどうかで、社員の受け止めはまるで変わります。ため息まじりに「上げても感謝されない」と漏らす社長ほど、実は金額だけ動かして、意味を伝えていないことが多いのです。たとえば「今年は不良率が下がったから」「新しい機械の使いこなしを評価して」と一言添えるだけでいい。その一言が、来年も頑張る理由になります。小さくても、続いて、伝わる。それが会社を強くする賃上げです。
よくある質問
Q1. 賃上げの原資は、まずどこから探せばいいですか
売上ではなく粗利からです。値決めの見直しと不採算商品の絞り込みで、粗利率を1〜3ポイント戻すのが最短。多くの会社で、ここに原資が眠っています。
Q2. 賃上げ促進税制を使えば、賃上げの費用は取り戻せますか
全額は戻りません。増やした給与の一部が法人税から控除される仕組みで、要件も毎年変わります。あくまで後押しと考え、詳細は税理士や国税庁で確認してください。
Q3. 何%上げるのが正解ですか
正解はありません。初年度はベースアップ1〜2%程度に抑え、上振れは賞与で還元するのが安全です。粗利の増加額の範囲に収まっているかで判断します。
Q4. 業績が不安定でも賃上げすべきですか
基本給の引き上げは慎重に。下げられない固定費になるためです。業績連動の賞与や決算賞与なら、調整余地を残しつつ社員に報いることができます。
Q5. パート・アルバイトの賃上げはどう考えますか
時給の一律アップだけでなく、繁忙期手当や勤続手当との組み合わせが有効です。ある小売業では手当を厚くしたことで、離職を1人抑えられました。
Q6. 最低賃金が上がると、自動的に人件費が増えて苦しいです
最低賃金の引き上げは避けられない流れです。だからこそ、値決めと生産性で原資を先につくる。受け身で耐えるより、料金への転嫁を計画的に進めるのが現実的です。
Q7. 社員に賃上げしても、あまり喜ばれません
金額だけ動かして理由を伝えていないケースが多いです。何を評価して上げたのかを言葉にするだけで、受け止めは変わります。伝え方も原資と同じくらい大切です。
Q8. 賃上げの相談は、誰にすればいいですか
自社の数字を把握している顧問税理士が第一候補です。粗利、生産性、資金繰り、税制まで一体で見られるためです。岐阜市の当事務所でもご相談を承っています。
最後に整理しておきたいこと
- 賃上げは「原資→制度→進め方」の順で考える
- 原資は売上ではなく粗利と生産性からつくる
- 賃上げ促進税制は後押し。あてにして計画を組まない
- ベースアップは慎重に、賞与・手当で調整余地を残す
- 小さく始め、続けられて、理由が伝わる形にする
賃上げは、迷っている間にも人材の流出という形で少しずつコストがかかっています。まずは直近の試算表を開いて、粗利率と一人あたり粗利がどう動いているかを確かめてみてください。その一手が、無理なく続く賃上げの第一歩になります。
経営の悩みを、一人で抱え込まないでください
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経営計画を考える前提として、企業成長・資金繰り・人材・承継まで含めた背景知識を整理したい方は、先にこちらもご覧ください。
このテーマは、判断の切り口ごとに考え方が分かれます
以下では、代表的な視点を整理しています。
- 経営計画の作り方を知りたい方へ →「経営計画 作り方とは何か」
- 数字の見方を深めたい方へ →「売上改善とは何か」
- 資金面から考えたい方へ →「資金繰り改善とは何か」
- 人材面から見直したい方へ →「人材育成とは何か」
- 承継まで見据えたい方へ →「事業継承とは何か」
- 健全な税務を理解したい方へ →「税務とは何か」
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