役員退職金の準備で迷う経営者へ|会社を伸ばす判断基準を税理士が解説
役員退職金をどう準備するか悩む社長へ!引退後の資金と会社の節税を両立する備え方を判断できるように解説
役員退職金は、引退の直前に慌てて用意するものではありません。準備は在任中から少しずつ進めるべきです。理由ははっきりしています。会社の資金を守りながら、税制の優遇も受けられるからです。動くべき人は、あと十年前後で引退を考える社長。「今の利益から出せるのか」「いくらが妥当なのか」「保険や共済は本当に使えるのか」。頭の片隅にこうした不安があるなら、この記事が役に立ちます。読み終えたときには、功績倍率という金額の目安、退職所得の優遇の仕組み、共済や保険という積み立て手段の違いを、自社に当てはめて判断できるようになっているはずです。岐阜で長く続けた会社を、次の世代へ、あるいは自分の第二の人生へつなぐ。その最後の一手を、感情ではなく数字で選べるように整理します。
この記事のポイント
- 役員退職金は「金額」と「積み立て手段」を分けて考える。いくら出すかと、そのお金をどう貯めるかは、別の問題です。
- 退職金には税制の優遇があるが、高すぎると否認される。功績倍率という目安を外れると、損金にならない部分が出ることもあります。
- 積み立て手段に唯一の正解はない。小規模企業共済、法人保険、共済制度。それぞれ性質が違い、会社の状況で向き不向きが変わります。
この記事の結論
- 役員退職金の目安は「最終報酬月額×在任年数×功績倍率」で概算できる
- 退職所得は控除と2分の1課税で、給与よりも手取りが残りやすい
- 積み立ては共済・保険を組み合わせ、資金繰りを崩さない範囲で始める
- 「利益が出た年にまとめて」ではなく「毎年コツコツ」が結局は強い
- 金額の妥当性や税務の線引きは、必ず専門家に確認してから決める
いくら出せるのか、金額の考え方から始める
正直なところ、退職金の相談で最初につまずくのが金額です。「多いほど得なんでしょう?」と聞かれることも多い。でも、そう単純ではありません。会社が損金にできる範囲には、一定の目安があるからです。
功績倍率で「妥当な水準」の見当をつける
実務でよく使われるのが功績倍率法という考え方です。おおまかに「最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率」で退職金の目安を出します。功績倍率は役職によって幅があり、社長で3倍前後、専務で2.5倍、平取締役で2倍前後を一つの参考値とする例が多いとされます。たとえば最終報酬が月80万円、在任30年、倍率3.0なら、80万×30×3.0で7,200万円が概算。ただし、これはあくまで目安です。同じ倍率でも、業績への貢献度や会社の規模によって、税務上「不相当に高額」と見られる部分が出ることもあります。逆に、引退間際に報酬を大きく引き上げて退職金を膨らませようとすると、その操作自体を問題視されることもある。数字はきれいに割り切れません。だからこそ、最終報酬の設定は退職の何年も前から一貫した水準にしておくことが、地味ですが効いてきます。
退職所得の優遇を、なぜ使わないともったいないのか
退職金がここまで重視されるのは、受け取る側の税負担が軽く設計されているからです。国税庁が示す退職所得の計算では、勤続年数に応じた退職所得控除があり、勤続20年までは1年あたり40万円、20年を超えた分は1年あたり70万円が差し引かれます。仮に在任30年なら、40万×20年+70万×10年で1,500万円が控除される計算。さらに、そこから残った額の2分の1にだけ課税される。分離課税なので、他の所得と合算されず税率が跳ね上がりにくい。同じ金額を役員報酬として毎月上乗せで受け取れば、その分だけ所得税・住民税・社会保険料がのしかかります。退職金でまとめて受け取ったほうが、実は手元に残りやすい場面が多いのです。この差を知らずに「報酬を厚くしておけばいい」と考えていた社長が、試算を見て黙り込むことは珍しくありません。
判断基準:この退職金は、会社を止めないか
金額を決めるとき、私が社長にいつも問うのは一つです。「その額を払った翌月、会社の資金は回りますか」。ある岐阜市内の製造業の社長は、退職金5,000万円を計画していました。数字上は功績倍率にも収まる。でも、その年に大口の設備投資が重なり、手元資金が一気に薄くなる見込みだった。結局、支給を二期に分け、一部は保険の解約金で賄う形に組み替えました。金額の妥当性と、支払える体力は、別の話。ここを混同すると、退職金が会社の首を絞めます。判断の軸は「税務上妥当か」と「資金繰りが持つか」の二本。両方を満たして初めて、その金額は現実的だと言えます。
どう貯めるか、積み立て手段は性質で選ぶ
金額の見当がついたら、次はそのお金をどう用意するかです。ここで焦る社長が本当に多い。利益が出た年にまとめて対策しようとして、慌てて保険に入り、数年後に資金繰りで解約する。よくあるのが、この「駆け込み型」の失敗です。
小規模企業共済:まず検討したい、自分のための備え
役員自身の退職金づくりとして、まず候補に挙がるのが中小機構の小規模企業共済です。掛金は月1,000円から7万円まで選べ、その全額が所得控除の対象になります。年間で最大84万円。積み立てながら毎年の税負担を抑えられ、廃業や退任のときに共済金として受け取れる。受け取り方によっては退職所得や公的年金等の扱いになり、税制面でも配慮されています。ただし、これは会社ではなく社長個人の退職金の話。会社から支給する役員退職金とは財布が別だという点は、押さえておく必要があります。
法人保険:使い方を誤らなければ、資金の受け皿になる
会社側の準備として使われるのが法人向けの生命保険です。かつては「保険で節税」と言われた時代もありましたが、税制改正で損金にできる範囲は見直されました。今は「節税商品」というより、退職金支給時に解約返戻金という形でまとまった資金を用意する受け皿、という位置づけで考えるのが現実的です。保険料の一部が経費になる商品もありますが、解約のタイミングで返戻金が益金になり、退職金の損金とぶつけて処理するのが基本の設計。ここを外すと、思ったほど効かない。ケースによりますが、保険は単体で見ず、支給時期とセットで組むものだと考えてください。
判断基準:手段を「一本足」にしない
建設業を営む岐阜の社長から、以前こんな相談を受けました。「保険を勧められるまま大きめに契約したが、毎年の保険料がきつい」。最初は半信半疑で聞いていた社長でしたが、共済と保険、そして日々の内部留保を三つに分けて積む形に組み替えたところ、翌年から資金繰りの気持ちが少し楽になったと話していました。派手な成功ではありません。ただ、毎月の支払いに追われる感覚が減った。それだけで、経営の視界は変わります。手段は一本に絞らない。共済で個人分、保険で会社分の受け皿、残りは着実な内部留保。この分散が、途中で崩れにくい備えをつくります。なお、取引先の倒産に備える倒産防止共済(経営セーフティ共済)は本来の目的が別ですが、解約手当金を退職金の原資に回す会社もあります。目的が違う制度を流用するときは、税務上の扱いを事前に確認しておくべきです。
よくある質問
Q1. 役員退職金はいつから準備すればいいですか?
引退の10年前が一つの目安です。積み立ては早いほど月々の負担が軽く、税制優遇も長く活かせます。3年前では選択肢がかなり狭まります。
Q2. 退職金はいくらまでなら経費にできますか?
明確な上限額はありません。功績倍率法による目安を超え「不相当に高額」と判断された部分は損金にできない場合があります。金額は必ず事前に専門家へ確認してください。
Q3. 給与を増やすのと退職金、どちらが得ですか?
多くの場合、退職金のほうが手取りは残りやすいです。退職所得控除と2分の1課税、分離課税の効果があるためです。ただし会社の資金繰り次第で最適解は変わります。
Q4. 小規模企業共済と会社の退職金は両方使えますか?
使えます。共済は社長個人の備え、役員退職金は会社からの支給で、財布が別です。両方を組み合わせる社長は少なくありません。
Q5. 保険に入れば節税になりますか?
以前ほどの節税効果はありません。今は退職金の原資を用意する受け皿として考えるのが現実的です。解約時期と支給時期を合わせる設計が前提になります。
Q6. 利益が出た年にまとめて備えても大丈夫ですか?
おすすめしません。駆け込みの契約は資金繰りを圧迫し、数年後に解約する失敗が多いです。毎年コツコツ積むほうが結局は続きます。
Q7. 業績が悪い年に退職金を払っても問題ないですか?
支給自体は可能ですが、資金繰りを崩す恐れがあります。分割支給や積立金の取り崩しで調整する方法もあります。支給前に資金計画の確認が必要です。
Q8. 事業承継と退職金は関係ありますか?
大いに関係します。退職金の支給で自社株の評価が下がり、後継者への株の移転がしやすくなる場合があります。承継の設計とセットで考えると効果的です。
最後に整理しておきたいこと
- 役員退職金は「いくら出すか」と「どう貯めるか」を分けて考える
- 金額は功績倍率で目安を出し、資金繰りが持つ範囲に収める
- 退職所得の優遇(控除・2分の1課税・分離課税)は使わないと損
- 積み立ては共済・保険・内部留保に分散し、一本足にしない
- 税務の線引きや金額の妥当性は、決める前に専門家へ確認する
退職金の準備は、迷っている間に選択肢が静かに減っていきます。引退はまだ先だと思っているうちが、実はいちばん打ち手の多い時期です。会社の数字と、自分のこれからの暮らし。その両方を守るために、まずは「今の利益から、毎年いくらなら無理なく積めるか」を一度書き出してみてください。長く続けた会社を、いい形で次へ渡すための備えは、今日からでも始められます。
経営の悩みを、一人で抱え込まないでください
岐阜の藤垣会計事務所にご相談ください
会社の数字・資金繰り・経営計画・事業承継・相続まで、社長の不安は一つひとつ違います。
経営計画を考える前提として、企業成長・資金繰り・人材・承継まで含めた背景知識を整理したい方は、先にこちらもご覧ください。
このテーマは、判断の切り口ごとに考え方が分かれます
以下では、代表的な視点を整理しています。
- 経営計画の作り方を知りたい方へ →「経営計画 作り方とは何か」
- 数字の見方を深めたい方へ →「売上改善とは何か」
- 資金面から考えたい方へ →「資金繰り改善とは何か」
- 人材面から見直したい方へ →「人材育成とは何か」
- 承継まで見据えたい方へ →「事業継承とは何か」
- 健全な税務を理解したい方へ →「税務とは何か」
同じテーマ「経営計画」の最近の記事
- 管理会計で数字に強くなる方法で迷う経営者へ|会社を伸ばす判断基準を解説
- 不採算事業からの撤退の判断で迷う経営者へ|会社を伸ばす判断基準を解説
- 経営理念の作り方で迷う経営者へ|会社を伸ばす判断基準を解説
藤垣会計事務所
〒500-8367 岐阜県岐阜市宇佐南2丁目5-5
TEL:058-215-1030
メールでお問い合わせ:https://fujigaki-tax.com/contact