商品価格は、原価ではなく「価値」と「利益が残る一線」から逆算して決めるべきである

価格は、勘で決めてはいけません。まず「いくら利益を残すか」を先に決める。そこから逆算して値付けする。これが順番です。多くの社長が、原価に少し乗せて売価を出し、あとは競合を見て下げてしまう。だから利益が残らない。値付けは、売れやすさと利益のせめぎ合いです。安くすれば売れる、でも残らない。高くすれば残る、でも売れない気がする。この「気がする」で自信を失っている経営者が、岐阜でも本当に多いのです。この記事を読めば、何を基準に価格を動かせばいいのか、値上げして大丈夫なのか、その判断の軸が見えてきます。安売り競争から一歩抜ける考え方を、現場の事例とあわせて整理します。

この記事のポイント

  • 価格は原価からの積み上げではなく、残したい利益からの逆算で決める。順番を変えるだけで、利益率がまるで変わってきます。
  • 「売れやすさ」と「利益」はトレードオフに見えて、価値の伝え方で両立できる。安さ以外の理由を作れるかが分かれ道です。
  • 値上げの怖さは、失う客数と増える利益を数字で比べれば冷静になれる。感覚で恐れる前に、電卓を叩くべきです。

この記事の結論

  • 先に目標利益を決め、そこから売価を逆算する
  • 原価に一律で乗せる値付けは、利益を取りこぼしやすい
  • 値下げより、価値を言語化して「下げない理由」を作るほうが効く
  • 値上げは全品ではなく、一部から段階的に試すのが現実的
  • 数字が苦手でも、粗利率だけは毎月見る習慣をつける

なぜ「原価に乗せるだけ」の値付けで利益が残らないのか

正直なところ、値付けの相談で一番多いのが「原価の何割増しにすればいいですか」という問いです。気持ちは分かります。でも、ここに落とし穴があります。

原価積み上げは「安全なつもり」で一番損をする

原価に一定率を乗せる方法は、計算が簡単で分かりやすい。仕入れ600円の商品に、なんとなく4割乗せて840円。これで一安心、と思ってしまう。けれど、この商品がお客さんにとって1,200円の価値があるなら、360円の利益を毎回捨てていることになります。逆に、市場では700円が相場の商品を840円で売れば、まったく動かない。原価だけを見ていると、外の相場も、お客さんが感じる価値も、どちらも視界に入らないのです。中小企業庁の調査でも、価格転嫁が十分にできていない中小企業の割合が高い傾向が続いていると指摘されています。つまり、多くの会社が「上げられるのに上げていない」。

実際にあった、値付けを変えただけの話

ある岐阜市内の小さな飲食店の話です。ランチが人気で行列もできる。でも利益が薄い。決算書を一緒に見ると、原価率が45%近くありました。社長は「安くして数を出す」戦略でした。そこで、一番人気の定食だけ100円上げてみましょう、と提案しました。最初、社長は「客が減る」と渋りました。1食750円を850円に。値上げというより、適正化に近い調整です。実際にやってみると、1日の来客はほとんど変わらず、月の粗利は十数万円増えた。「あの100円を、何年ももらい損ねていたんですね」と、少し悔しそうに笑っていたのを覚えています。派手な成功ではありません。ただ、毎月末に通帳を見るたびのため息が、少し減った。それだけです。

ここで大事なのは、値上げそのものより「なぜ薄利になっていたか」を数字で見たことです。社長は感覚では「安いから来てくれている」と信じていました。でも実際に客足を追うと、価格を理由に来ている人は一部だった。思い込みと数字がずれていた。この「ずれ」こそが、値付けの怖さの正体です。帝国データバンクなどの調査でも、コスト上昇分を価格へ十分に反映できていない中小企業が多いことが繰り返し示されています。上げられないのではなく、上げていいと気づいていない。そういう会社が、想像以上に多いのです。

判断基準:値付けを見直すべきかを見分ける3つのサイン

  • 粗利率が業界平均より明らかに低い。数字を見ずに「うちは薄利多売だから」で片付けていないか。
  • 「安いから買う」客ばかりで、リピートが価格に左右される。価格でしか選ばれていないなら危険信号です。
  • 仕入れや人件費が上がったのに、売価を数年変えていない。コスト増を自分で飲み込み続けている状態です。

ケースによりますが、このうち2つ当てはまるなら、一度立ち止まって値付けを点検したほうがいい。放っておくと、忙しいのに残らない、という一番しんどい状態が続きます。売上は伸びているのに手元にお金が残らない会社の多くは、実はこの値付けの一線を越えられていないだけ、ということが少なくありません。

「売れやすさ」と「利益」を両立させる考え方

実は、価格を下げなくても売れやすさは作れます。多くの社長が「売れない=高い」と思い込んでいますが、そうとは限らないのです。

下げる前に、「下げない理由」を作れないか考える

値下げは、一度やると戻せません。お客さんは下がった価格を基準に覚えてしまう。だから、下げる前に「なぜこの価格なのか」を伝えられないかを先に考えます。同じ商品でも、素材のこだわり、アフター対応、納期の速さ、相談のしやすさ。安さ以外の理由が一つでもあれば、価格は守れます。ある製造業の社長は、他社より2割高い部品を売っていました。理由は「不良品が出たとき、翌日には代替を届ける」から。この一点で、価格ではなく信頼で選ばれていた。値段の話をお客さんがしてこないのは、価値が伝わっている証拠です。

「一物多価」という発想を持つ

同じ商品を、全員に同じ値段で売る必要はありません。松竹梅の3段階を用意する。まとめ買いには単価を下げる。逆に、少量・急ぎには相応の価格をつける。よくあるのが、真ん中の「竹」が一番選ばれるという現象です。人は極端を避けるので、あえて高い「松」を置くと、本当に売りたい「竹」が割安に見えて動く。価格の選択肢を設計するだけで、平均単価は上がることがあります。値付けは一点で決めるものではなく、幅で設計するもの、と考えると気が楽になります。

実際にあった例です。ある岐阜の小売店で、主力商品を1種類2,000円だけで売っていました。そこに1,500円の廉価版と、3,500円の上位版を足してもらった。すると、これまで「高い」と離れかけていた層が1,500円を買い、こだわり派が3,500円を選ぶようになった。結果として、平均の購入単価は2,000円より上がったのです。社長は「安いのを足したら単価が下がると思っていた」と驚いていました。選択肢を作ることは、値下げとは違う。むしろ、買わなかった人と、もっと払える人の両方を拾う設計です。ここを混同すると、せっかくの機会を逃します。

判断基準:値上げに踏み切ってよいかの見極め方

値上げの怖さは「どれだけ客が減るか分からない」ことから来ます。そこで、数字で仮に置いてみます。たとえば粗利率30%の商品を10%値上げすると、理屈の上では、来客が2割減っても粗利総額はほぼ維持できる計算になります。逆に言えば、2割も客が逃げるケースは、価格でしか選ばれていなかった商売です。まずは全品ではなく、看板商品や、価格を気にされにくい商品から試す。1品でも上げてみて反応を見る。その一歩が、感覚の恐怖を数字の判断に変えてくれます。最初は半信半疑だった社長ほど、やってみて「思ったより誰も何も言わなかった」と拍子抜けする。それが実際のところです。

よくある質問

Q1. 価格はまず何を基準に決めればいいですか

残したい利益から逆算するのが基本です。目標粗利率を先に決め、原価と相場を突き合わせて売価を出します。原価にただ乗せるより利益が残りやすくなります。

Q2. 競合より高いと売れないのでは

安さ以外の選ばれる理由があれば売れます。品質・対応・納期など、価値を言語化できているかが分かれ道です。価格だけの勝負は避けるべきです。

Q3. 値上げすると客が全員離れませんか

全員は離れません。粗利率30%の商品なら、10%値上げで2割客が減っても粗利はほぼ維持できる計算です。まず1品から試すのが安全です。

Q4. 原価率はどのくらいが適正ですか

業種で大きく違います。飲食なら3割前後が一つの目安とされますが、絶対値より「自社の過去や同業平均と比べて高くないか」で見るべきです。

Q5. 安売りで数を売る戦略は間違いですか

間違いではありませんが、体力が要ります。数が2倍でも利益が薄ければ、人手も在庫も倍かかって残らない。粗利総額で判断するのが正解です。

Q6. 値下げ交渉にはどう応じるべきですか

安易に下げず、条件を交換します。まとめ買いや長期契約とセットなら検討する。理由なく下げると、他の客にも波及し価格が崩れます。

Q7. 数字が苦手でも価格管理はできますか

できます。まず粗利率だけを毎月見る習慣で十分です。全部を管理しようとせず、一つの数字を追うことから始めるのが続けるコツです。

Q8. 価格を上げる前に社内で準備することは

値上げの理由を、スタッフが説明できるようにしておくことです。現場が理由を語れないと客に伝わりません。まず社内で言葉を揃えるべきです。

最後に整理しておきたいこと

  • 価格は原価積み上げではなく、残したい利益からの逆算で決める
  • 安さ以外の「下げない理由」を作れば、価格は守れる
  • 松竹梅など価格に幅を持たせると、平均単価が上がりやすい
  • 値上げは数字で仮置きし、看板商品や1品から試す
  • 数字が苦手でも、粗利率だけは毎月見る

値付けは、会社の利益を左右する一番の急所です。それでいて、勘や遠慮で決めてしまいがちな部分でもあります。もし今、価格に自信が持てず、上げるべきか下げるべきか迷っているなら、まずは自社の粗利率を出すところから始めてみてください。数字が見えれば、恐怖は判断に変わります。一人で抱え込まず、決算書を前に一度、値付けの棚卸しをしてみることをおすすめします。

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